牛の精巣というのは、生後3ヶ月齢くらいで正常な位置である陰嚢部に降りてきます。
この精巣下降が正常に起こらない病的な状態を陰睾(潜在精巣)と言います。

この陰睾の場合、簡単に摘出できる鼠径部の場合は良いのですが、腹腔内にある場合は、大掛かりな外科手術となるので、摘出手術を望まない生産農家さんが多いのです。
よって、私自身も、ほとんど手術経験がありません。
しかしながら、先日のこと、お世話になっている先輩の先生に、生産農場でお会いしたら、何やら立位でオペをされています。
覗いてみると、陰睾の手術でした。
先生曰く、「開腹して取れる個体も多いよ」とのこと。
簡単に仰っていました。
陰睾のままでも肥育出来るため、そのまま肥育するものと思い込んていたため、とても刺激を受けました。
そして、今回チャレンジすることに。
生産農家さんが、セリに出さずに自家肥育を選んだ生後10ヶ月齢の個体です。
すでに少し雄顔になっています。

鼠径部からアプローチする方法もありますが、月齢が経っているのと、自家肥育の個体のため、膁部切開を選択しました。
ここで、新人の先生達にワンポイントアドバイスです。
例えば、片側性の陰睾の場合、精巣が無い方の側を切開する必要があります。
今回の場合は、右の精巣は正常でしたので、左側を切開しなければいけません(これは鼠径部を切開する場合も同じです。)

いざ、開腹です。


腹腔内まで到達したら、いざ精巣探索です。

この腹腔内での探索ですが、粘っても見つからない個体も多いので、15分なら15分と時間を決めておくと良いでしょう。
今回は、運良く早期に見つかりました。

この後は、観血去勢の要領で結紮し切除し、閉腹すれば終了です。

準備から片付けまでで、1時間程度で終わりました。
先日の先輩獣医師とお会いしなければ、今回のオペは無かったと思います。
まだまだ、固定概念に囚われず、チャレンジすることの大切さを痛感させられる出来事でした。